アカシカの発情期:ほかにない体験

コラージュ:霧のなかのアカシカ(Cervus elaphus)とメスや子ジカ、迷彩したブラインドからの眺め、そして北バイエルンで三脚を構える迷彩姿の撮影者。
北バイエルンのアカシカの発情期

北バイエルンのアカシカの発情期

要点

1. アカシカの発情期:9月下旬から10月中旬まで
2. 発情期のアカシカの声:オスの低くうなるような鳴き声
3. 場所:北バイエルンの森林地帯
4. 活動:アカシカは明け方と夕暮れに動く
5. 記事の内容:オスとメスのアカシカの観察と撮影
6. 装備:迷彩の服、カメラ、双眼鏡、マイク、赤色ライト
7. 難しさ:暗さ、霧、そしてアカシカの敏感さ
8. 成果:忘れがたいひとときと、見ごたえのある組写真


目次

1. アカシカの発情期の魅力:忘れがたい体験
2. 森の静けさと、最初の鳴き声
3. アカシカを探して
4. はじめて目にした、特別なひととき
5. アカシカが引き上げるとき
6. 心の動いた一日
7. 発情期の、それに続く日々


アカシカの発情期の魅力:忘れがたい体験

9月の終わりの、ひんやりとした秋の朝でした。妻と私は特別な冒険に出ることにしました。北バイエルンの森林地帯で、アカシカの発情期を観察するのです。自然写真を撮る人の多くはMüritzやDarßといった知られた地方へ向かいますが、私たちは今回、家のすぐそばでこの見ものを体験することにしました。


おことわり: 私たちが向かったのは、よく知っている森林地帯です。この時期に発情期が進んでいることも分かっていました。同じような行程を考えている方は、まずその土地に慣れておいてください。暗いなかを歩き回って野生動物を乱す前に、明るいうちに現地を訪ね、道や見込みのある場所を確かめておくとよいでしょう。むだな撹乱を避けるために、必ず心にとめておいてください。


難しさ:この地域のアカシカをカメラの前に収めるのは、なかなか骨が折れます。狩猟の圧力と、住みついているオオカミのために、非常に警戒心が強いのです。アカシカが日中に開けた場所に姿を見せず、薄明と夜になってはじめて動き出すのも、そこに理由があります。

計画は単純でした:早く起きて、カメラを手に取り、堂々としたアカシカを探しに出る。
支度は最小限です。双眼鏡、明るいレンズを付けたカメラ、目立たない色の服、そして暗いなかを安全に動くための赤色ライト。ただ何より、この計画には忍耐と注意深さが要りました。これは最初の下見の行程で、撮影は一番の目的ではありません。アカシカがいるかどうか、どこにいるかを知ることが主な目当てでした。続く日々に、撮影のための待ち伏せの場所を的をしぼって決めるためです。

森の静けさと、最初の鳴き声

濡れた森を抜けていく冒険を始めたとき、あたりはまだ暗いままでした。その数時間前の雨があとを残していて、地面は濡れ、木々から落ちるしずくの音がどこにでもありました。ヒキガエルが濡れた林道を横切っていきます。赤色ライトのおかげで早めに気づき、踏まずに済みました。250メートルほど進んだところで、それは聞こえてきました。アカシカ(Cervus elaphus)の最初の発情期の鳴き声が静けさを貫いたのです。低くうなるような響きが、体の芯まで届きました。私たちは少し足を止め、遠くからこちらへ渡ってくる声に耳を澄ませました。

森の音が感覚を研ぎ澄ませていく、こうしたひとときは濃密です。日常の邪魔な音は何もありません。いるのは生きものと、私たちだけでした。

アカシカを探して

声をたどりながら、森の陰を静かに進みました。赤色ライトのおかげで、動物に気づかれずに道を確かめられます。とりわけ心に残ったのは、この時間の自然を包む静けさでした。すべてが止まっているように見えるなか、アカシカの声だけがしだいに厚みを増していきます。

少し歩くと、森のなかの小高い場所に出ました。そこからは氾濫原の広い草地が見渡せます。霧が開けた景色の上を流れ、あたりの空気を不思議なものにしていました。アカシカの姿はまだ見えませんが、その鳴き声から近くにいることは分かります。

北バイエルンの氾濫原の草地にかかる青い夜明け。針葉樹林の暗い輪郭の手前に地表の霧が広がる。
北バイエルンの森林地帯にある薄明の氾濫原の風景。アカシカはここを発情期に使います。

はじめて目にした、特別なひととき

しばらくして、開けた氾濫原の方へ場所を移しました。そのあいだも森の陰と公共の道を外れないようにしています。そうすることで、足音をできるだけ抑えられました。森のふちと開けた景色の手前まで来たとき、草地の反対側に何頭かのメスのアカシカ(Cervus elaphus)が見えました。森の陰にとどまったまま、ゆっくりと慎重にしゃがみ込みます。不用意な動きひとつで逃げられてしまうので、その姿勢のまま、ありのままにふるまうアカシカの見ごたえある姿を眺めていました。

何頭かのメスのアカシカ(Cervus elaphus)が、青みがかった霧のなかを森の草地を横切っていく。暗い葉の切れ間から見たようす。
林間の草地の反対側で、メスのアカシカ(Cervus elaphus)をはじめて目にする

そのとき、それは起こりました。堂々としたオスのアカシカが姿を現したのです。大きな角が薄明の光にかすかに光っていました。アカシカは少しのあいだ立ち止まります。誇らしげで、力に満ちていました。カメラを手に取り、続けて撮るには申し分のないひとときです。ここで機材の強みが出ました。Sony A1と400mm f/2.8であれば、この光の乏しい場面でも手持ちで組写真を撮れます。

北バイエルンの発情期の草地で、アカシカが霧のなか群れを率いていく。
みごとな角をもつアカシカ – Sony A1 + 400mm f/2.8 GM – 1/125 – ISO12800

見ごたえのあるひとときでした。 こちらに気づかれないまま、オスのアカシカの堂々とした姿を見られたのです。自然の静けさ、背後で響く力強い鳴き声、そしてこの堂々とした生きものとのまたとない近さが、この時間を忘れがたい体験にしました。

北バイエルンでのアカシカの発情期の撮影における、厳しい光の条件を示すヒストグラム
厳しい光の条件を示すヒストグラム

厳しい光の条件

ヒストグラムは、この写真を撮ったときの厳しい光の条件をはっきり示しています。光が乏しかったため、望遠レンズで長い露光時間を選び、三脚なしの手持ちで撮るほかありませんでした。ヒストグラムの左側を見れば分かるとおり、暗い画素が大きく占めています。露出が足りていないということです。カメラの設定を合わせても、この場面はまだかなり暗いままでした。

焦点距離:400mm – 絞り:F2.8 – シャッタースピード:1/125 – ISO感度:12800


アカシカが引き上げるとき

薄明が進み、光が変わっていくころ、日の出のおよそ15分前でしたが、動物たちはゆっくりと引き上げはじめました。心に残ったのは、このふるまいが続く日々もきっかり同じ時刻に繰り返されたことです。霧はふたたび濃くなり、アカシカは身を守る森へ消えていきました。私たちはもうしばらく座ったまま、しだいに小さくなっていく鳴き声に耳を澄ませました。
私たちも帰路につくことにしたのは、日の出から10分ほど過ぎたころです。見ごたえのある光景のあとの森の静けさには、心を落ち着かせるものがありました。この行程はうまくいっただけでなく、期待を超えるものになりました。北バイエルンの発情期を聞くだけでなく、じっくり体験し、写真にも収められたのです。すばらしい気持ちでした。
ただ、この朝の出来事はそれだけでは終わりませんでした。帰り道、森に接する小さな草地のそばを通ったとき、やぶ越しに突然、角が目に入ったのです。

北バイエルンの森で、発情期のアカシカの角が密な草木の陰から突き出ている
帰り道、やぶ越しに見つけたアカシカの角。 – Sony A1 – 400mm f/2.8 – 1/500 – ISO12800

身をかがめたまま、ゆっくり静かに近づきました。アカシカと私のあいだには茂みがあり、それが隠れ場所になって、草木越しに軽くしゃがんだ姿勢から一枚撮ることができました。とても心に残るひとときです。森の巨人との隔たりは、おそらく20メートルほどでした。妻と私はしばらくしゃがんだままでした。そのあいだアカシカはゆっくりと森のふちへ歩いていき、やがてそのなかへ消えました。

発情期のアカシカ(Cervus elaphus)を森のなかで横から撮影。密な森を背に、みごとな角をもつ。
私たちの道を横切った、森の巨人であるアカシカ

心の動いた一日

その日の残りは、朝に体験したことに彩られたものでした。アカシカの鳴き声、霧のつくる空気、そして動物との近さが、長く残る印象を刻みました。自然を間近に体験しただけではありません。アカシカの美しさと力を、その瞬間ごと写真に収めることができたのです。そのことが、この日を忘れがたいものにしました。

発情期の、それに続く日々

続く日々にもう一度ためしてみることにして、夜の早いうちから前に見定めた場所に入り、狙いを定めて写真と音を記録しようとしました。録音はうまくいきましたが、それ以上の写真は撮れませんでした。天気に当てが外れたのです。

発情期の早朝、迷彩したブラインドから草地を望む。周りは木々と薄い霧
迷彩したブラインドでのさらなる試み。録音は成功しましたが、発情期の写真は撮れませんでした。

濃い霧が動物の姿をさえぎりました。発情期の鳴き声はすぐ近くだったのに、堂々としたアカシカを目にすることはできません。そして前に書いたとおり、アカシカは日の出のおよそ15分前に身を守る森へ消えていきました。目覚ましを合わせていたかのようです。それでもこの発情期の遠出は成果がありました。ほかにない録音ができたからです。


アカシカの感覚についての事実と、撮影する側の対処

人の色の見え方で写した、迷彩したブラインド

人の色の見え方で写した、迷彩したブラインド

アカシカの色の見え方(二色型色覚)を模した画像。赤系の色の彩度が落ちている。
アカシカの色の見え方(二色型色覚)を模した画像。赤系の色の彩度が落ちている。

次にあげる事実は、発情期のあいだ目立たずにいて、動物を乱さずにいるために役立ちます。

  1. すぐれた嗅覚:アカシカは遠い距離からにおいを感じ取り、人の気配を早くから察します。
  • 対処:香水や制汗剤のような強いにおいのものは避け、においのない石けんを使ってください。自分のにおいがアカシカへ運ばれないよう、風上に立たないことが大切です。
  1. 広い視野:アカシカの視野はほぼ300度あり、動きを早くから見つけます。
  • 対処:木や茂みといった自然の遮蔽を使ってください。アカシカの視野で目立たないよう、動きはゆっくりが基本です。
  1. 限られた色覚:赤系の色はアカシカには灰色に見え、青系と緑系の色のほうがよく見えます。
  • 対処:まわりの自然になじむよう、灰色や茶色、緑といった落ち着いた色を身につけてください。
  1. 青と紫外線への敏感さ:アカシカは青と紫外線をよく感じ取れるため、とくに敏感です。青は動物にとって目印の色のように働くことがあります。
  • 対処:目立たずにいるため、紫外線を反射する生地の服は避け、紫外線を出す添加剤の入っていない洗剤を使ってください。
  1. 夜の視力:アカシカは薄明と夜でもよく見えます。餌を探すときにも逃げるときにも役に立つ力です。
  • 対処:赤色ライトを使ってください。赤い光は動物を乱しにくく、より目立たずに動けるからです。
  1. 鋭い聴覚:アカシカの聴覚はきわめてすぐれていて、ごく小さな音にも敏感に反応します。
  • 対処:音の出にくい素材の服を着て、ゆっくり慎重に動いてください。こすれる生地の音や、落ち葉や枝を踏む足音を抑えるためです。
  1. 左右別々に動く耳:アカシカは両耳を別々に動かせて、いろいろな方向からの音を聞き分けられます。
  • 対処:突然の大きな音は避けてください。声を出さず、カメラはできるだけ音を立てずに操作します(電子シャッター)。
  1. 動きへの素早い逃走:アカシカは怪しい動きにすぐ反応し、危険を逃れるために素早く走り去るのです。
  • 対処:慎重に、ゆっくり動いてください。一気に移動せず、短く立ち止まりながら進むとよいでしょう。

アカシカの発情期についてのFAQ

1. ドイツではアカシカの発情期はいつ始まりますか。
アカシカの発情期はおよそ9月中旬に始まり、10月中旬まで続きます。動物を観察するのにもっとも向いた時期です。

2. 乱さずにアカシカへどこまで近づけますか。
いつでも大きく距離をとるのがいちばんです。自分にとっても動物にとっても安全につながります。双眼鏡や望遠レンズがあれば、離れた場所からでも動物を乱さずに見ごたえのある写真を撮れます。

3. 発情期の撮影で気をつけることは何ですか。
大切なのは、辛抱強くいることと、静かにしていることです。アカシカににおいを気づかれないよう、いつも風上に立たないようにしてください。自分は野生動物のもとを訪ねる客であり、自然と動物に見合った敬意をもってふるまうべきだということも心にとめてください。それに、アカシカはなでるための動物ではなく、危険を感じれば身を守ります。とくにオスはこの時期ホルモンに満ちていて、気が立ちやすくなっています。

4. アカシカの撮影にはどんな装備が要りますか。
カメラ、焦点距離400mm以上の明るい望遠レンズ、そして三脚がおすすめです。迷彩の服と赤色ライトも役に立ちます。

5. 発情期にアカシカが鳴くのはなぜですか。
アカシカが鳴くのは、競争相手を威圧し、メスを引き寄せるためです。力と優位のしるしでもあります。